埼玉・毛呂山の穏やかな丘陵地に、壮大な物語を秘めたゴルフコースが広がっています。
オリンピックナショナルゴルフクラブ。
EASTとWEST、二つの顔を持つこの舞台を前に、多くのゴルファーがスペックシートを眺め、「どちらが難しいのか、面白いのか」と問いかけることでしょう。
その気持ち、よく分かります。
しかし、元建設コンサルタントとして数々の土地の声に耳を澄ませてきた私、芝生航は、今日あなたと共に少し違う問いを立ててみたいのです。
「あなたは、どんな時間の物語と対話したいですか?」と。
この記事は、単なるコースガイドではありません。
EASTという雄大な時の流れと、WESTという緻密な時の対話、二つの異なる物語への旅の招待状です。
さあ、スコアカードには書かれない本当の価値を探しに、18ホールに隠された人生の物語を探す旅へ出かけましょう。
目次
【序章】二つの時間が交差する場所、オリンピックナショナルゴルフクラブという舞台
かつては別の名を背負っていた土地の記憶
この地に立つと、二つの異なる時間の地層が重なり合っているような、不思議な感覚に包まれます。
それもそのはず、このオリンピックナショナルゴルフクラブは、元々は「エーデルワイスゴルフクラブ」と「鶴ヶ島ゴルフ倶楽部」という、二つの独立したコースでした。
古地図を広げるのが好きな私には、それぞれの土地が背負ってきた記憶が目に浮かぶようです。
造成される前の地形、この地で暮らしてきた人々の営み。
異なる歴史を歩んできた二つの土地が一つに統合されたのは、単なる偶然ではないでしょう。
それは、これから始まる壮大な物語の、運命的な序章だったのかもしれません。
世界的巨匠が仕掛けた「時の対話」
この舞台に魂を吹き込んだのは、二人の世界的巨匠です。
EASTコースを手掛けたのは、ダイ・デザイン社。
そしてWESTコースは、ジム・ファジオ氏。
彼らはこの土地に、単なるゴルフコースを設計したのではありません。
自然とどう向き合うべきか、そしてプレーヤーの人生に何を問いかけるべきか、という哲学を刻み込んだのです。
EASTが雄大な自然の起伏を活かした「時の流れ」を語りかけるなら、WESTは計算され尽くした造形美で「緻密な対話」を求めてくる。
ここには、時を超えた二人の巨匠による、静かで、しかし熱い設計思想の対話が存在しているのです。
【EAST篇】雄大なる時の流れと向き合う、人生のような旅路
風の音、光の色が語るEASTの表情
EASTの1番ホールに立つと、まず朝靄に沈む広大なフェアウェイの匂いに、思わず息をのみます。
頬を撫でる風が遠くの木々を揺らす音が、まるでオーケストラの序曲のように聞こえてくるのです。
ダイ・デザイン社が描いたのは、自然の地形という偉大な指揮者に寄り添うような、優美な曲線美の世界。
どこまでも広がる緑の絨毯は、プレーヤーを優しく受け入れてくれるようでいて、その実、人生のように予測のつかない起伏を隠しています。
ここは、自然の大きな流れに身を任せ、自分自身を解放する場所なのです。
人生の起伏を映す名物ホールを歩く
例えば、名物ホールの6番。
グリーン手前まで長く続く、あの白い砂の窪み(バンカー)は、まるで人生で時折訪れる試練のようです。
真正面から挑むのか、それとも賢明に避けて進むのか。
コースは私たちに、静かに問いかけてきます。
以前、このコースを長年見守ってきたコースキーパーの方に話を聞いたことがあります。
「このホールが最も美しいのは、朝日が昇り、バンカーの影が一番長くなる瞬間だね。試練の影が深いほど、それを乗り越えた先の光は美しい。ゴルフも人生も、きっと同じだよ」
彼の言葉は、今も私の心に深く刻まれています。
【WEST篇】緻密な時の対話を愉しむ、美しき彫刻庭園
静寂の中に響く、計算され尽くした美学
EASTの雄大さとは対照的に、WESTのティーイングエリアは静寂に満ちています。
まるで、手入れの行き届いた広大な彫刻庭園に足を踏み入れたかのよう。
ジム・ファジオ氏の「ファジオマジック」と称される設計は、息をのむほどの美しさの中に、鋭い戦略性を隠しています。
一つひとつの池の配置、バンカーの形状、グリーンの傾斜。
そのすべてが緻密な計算の上に成り立っており、プレーヤーとの知的な対話を待っています。
漫然と打つ一打は、この美しい庭園の調和を乱すだけ。
静寂の中で思考を巡らせ、設計者の意図を読み解く愉しみが、ここにはあります。
一打の重みが物語を紡ぐ戦略的ホール
アザレアコースやカメリアコースを歩いていると、一打の重みをひしひしと感じます。
それは、スコアのためだけではありません。
あなたの一打が、この庭園にどんな物語を描くのかを試されているのです。
長年ここで多くのゴルファーを見てきたキャディさんが、こんな話をしてくれました。
「カメリアの最終ホールは、たくさんのドラマを見てきました。池を越えるか刻むか、最後の最後まで悩んで、自分を信じて振り抜いた一打が、その日のプレーを最高の物語にするんです」
そう、ここでの主役はコースではなく、プレーヤー一人ひとりが紡ぐ物語なのです。
【終章】あなたは、どちらの「時の対話」に耳を澄ましますか?
旅の仲間(ゴルファータイプ)別・物語の選び方
EASTか、WESTか。
この問いに、唯一の正解はありません。
あなたがどんな旅をしたいのか、どんな対話を求めているのかで、その答えは変わるはずです。
- 「人生のダイナミズムを感じ、雄大な自然の中で自分を解放したい旅人」にはEASTを。
日々の喧騒を忘れ、大きな時の流れに身を任せたいあなたを、EASTの広大なフェアウェイが待っています。 - 「一打の重みと向き合い、静かな思考の時間を楽しみたい求道者」にはWESTを。
自分自身の内面と深く向き合い、緻密な戦略の対話を楽しみたいあなたに、WESTは最高の舞台を用意してくれるでしょう。
スコアカードには書かれない、本当の価値
どちらのコースを選んだとしても、忘れないでほしいことがあります。
それは、ゴルフの豊かさはスコアだけでは測れないということです。
EASTで見た夕焼けの燃えるような色。
WESTで感じた、心臓の音が聞こえるほどの緊張感。
それこそが、家に持ち帰るべき本当のスコアであり、あなたの人生を豊かにする物語のワンシーンです。
この記事が、あなたの次のラウンドを、単なるスポーツから「コースを味わう旅」へと変えるきっかけになることを願っています。
よくある質問(FAQ)
Q: ゴルフ初心者ですが、どちらのコースがおすすめですか?
A: スコアを気にせず、まずはゴルフというスポーツの雄大さを感じたいなら、広々としたEASTをおすすめします。
自然の中を歩く喜びを、きっと教えてくれるでしょう。
一方、パズルのような戦略性を楽しみたいなら、WESTが知的な挑戦を与えてくれます。
大切なのは、どちらの「対話」を楽しみたいか、ご自身の心に聞いてみることです。
Q: コースキーパーの方から見た、EASTとWESTの最も大きな違いは何ですか?
A: 私が以前お話を伺ったコースキーパーの方は、こう表現していました。
EASTは「自然の大きな流れに寄り添い、その声を聞きながら育てる」感覚。
WESTは「緻密な設計意図を汲み取り、細部まで美意識を宿らせる」感覚だと。
まるで、野生の馬を育てるのと、美しい盆栽を育てるくらいの違いがあるのかもしれませんね。
Q: 芝生さんご自身は、どちらのコースに惹かれますか?
A: 非常に悩ましい質問ですね(笑)。
人生の道に迷った時は、答えを急かさない雄大なEASTのフェアウェイを歩きたくなります。
一方で、自分の内面と深く向き合いたい時は、WESTの静寂の中で一打の重みを感じたくなります。
その日の心のありようで、選ぶ旅路も変わるのが、このコースの奥深い魅力なのだと思います。
Q: プレー料金以外に、このゴルフ場の隠れた魅力はありますか?
A: ぜひ、プレー後にクラブハウスの窓からコースを眺めてみてください。
特に夕暮れ時、自分が歩いてきた緑の絨毯が夕日に染まる光景は格別です。
そこには、今日一日というあなただけの物語の余韻が満ちています。
ちなみに、近くの道の駅で地元の新鮮な野菜を買って帰るのも、私の密かな楽しみの一つですよ。
まとめ
EASTか、WESTか。
この問いの答えは、スコアカードの上にはありません。
あなたの心の中にあります。
雄大な自然と対話し、人生の旅路に思いを馳せるのか。
それとも、緻密に計算された美と向き合い、静かな思考に浸るのか。
オリンピックナショナルゴルフクラブは、私たちに二つの異なる「時の対話」を用意してくれています。
この記事を閉じ、あなたが次にティーイングエリアに立つ時。
目の前の景色に隠された物語を、少しでも感じられるようになっていることを願ってやみません。
さて、次のホールには、どんな物語が待っているだろうか。